夏の季語『紫陽花(あじさい)』

夏の季語『紫陽花(あじさい)』

解説

『紫陽花(あじさい)』は夏の季語です。文語では『あぢさゐ』とも書きます。こちらの方が少しかっこいい感じもしますね。

さて紫陽花はユキノシタ科の落葉低木で庭に植えたり鉢植えで観賞用にして楽しみます。6月~7月、ちょうど夏の時期に無数の花が半球状に咲きます。

白・紫・赤と様々な色がありますが、これは土中が酸性か・アルカリ性か、によって変わるようです。

同じ意味の季語では『四葩(よひら)』『七変化(しちへんげ)』という言葉もあります。

※太字は全て季語です。

季語『紫陽花(あじさい)』の俳句と鑑賞

あぢさゐはすべて残像ではないか 山口優夢

鑑賞:有名な若手作家の一句です。意味は簡単にわかりますよね。「もしかしたら紫陽花というのは残像なんじゃないだろうか?」ということです。

ここで思い出して欲しいのは紫陽花は梅雨の時期に咲くということです。雨に煙る中、ぼんやりと浮かび上がる紫陽花という花の姿。あちらこちらで目にはするけれど、いろんなところで見るからこそ記憶にくっきりとは残らないような気がしませんか?

これは季語を別の定義を与えるタイプの俳句ですが、とても良くできた句だと思います。「残像ではないか?」と言われると「そうかもしれませんね」と答える他ありません。

また、紫陽花を「あぢさゐ」と表記しているところも残像っぽさがありますよね。

あぢさゐを小突いてこども通りけり 小野淳子

鑑賞:今日、明日にもそこらの路地でありそうな風景です。でも紫陽花というのは花にしては暗い花ですよね。

例えば、ヒマワリやタンポポが周囲に明るさを振りまくのに対して、バラなんかはそう単純にはいきません。少し艶っぽくて暗さをまとった美しさがあります。紫陽花も同じタイプでどちらかと言えば暗さをまとった花です。

さぁ、そこへ通りかかった子供(おそらく小学生くらい?)。彼は紫陽花を小突いていきました。だって、紫陽花の良さなんてわからない歳ですから。

「なんだこの花!気持ち悪いなぁ」

とポーンと突いたような感じじゃないでしょうか。紫陽花の暗さと子供の明るさの対比も読み取れますね。

どこにでもある風景もこんなに素敵な俳句になるんです!

ゆあみして来てあぢさゐの前を過ぐ 山口誓子

解説:有名な俳人の山口誓子の作品です。「ゆあみ」というのはお風呂に入ることですね。昔はお風呂がない家も少なくなく、みんなこぞって銭湯に行っていました。おそらく、この俳句の中の主人公もそうなのでしょう。

そして紫陽花の前を通った。

ただ、これだけしか書かれていません。しかしながら、どこか艶っぽい印象を受けるのは季語が『紫陽花』だからでしょう。例えば、若い未亡人の比喩なんかとして捉えてもいけるような気がします。

もちろん、この俳句の中にはそんなことは書かれていません。こちらの勝手な想像です。ですが、俳句を読む・楽しむときは勝手な想像を思いっきり膨らまして楽しむのがコツです。

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