春の季語『余寒(よかん)』

春の季語『余寒(よかん)』

解説
立春を過ぎてもまだ残る寒さのこと。暦の上では春になっていても、実際の気温の変化が遅れてやってくるものですよね。「暑さ寒さも彼岸まで」という言葉もあります。

『春寒し』『冴返る』と似た意味ですが、寒さの感じはこちらの方が強いです。
『残る寒さ』も季語であり、『残暑』に対応しています。

※太い文字は季語です。

季語『余寒』の俳句と鑑賞

鎌倉を驚かしたる余寒あり 高浜虚子

鑑賞:大俳人である高浜虚子の有名な一句で、余寒の句と言えばこの句が出てきます。意味は一目瞭然ですね。鎌倉を驚かした、つまり「鎌倉に住む人々その他全てが驚くほどの余寒である」というそれだけのことですが、鎌倉という地名から我々はどうしても鎌倉幕府やらを連想してしまいます。

歴史的に重要な地名を出すことで、歴史上の人物やら当時に書かれた文書や絵、それらが頭をよぎりますよね。
その効果を狙った一句とも言えます。さすがの上手さです。

余寒なほ爪立ちともすひとりの灯 樋口富貴子

鑑賞:余寒という季語にはよく「なほ」をつけて使用されます。「なお」のことで、「まだまだ余寒」というような意味にして使用します。
三音の季語なので、こうすることで五音になり俳句の中で使いやすくなります。上五(※)にも下五(※)にもいれやすくなりますから。この俳句の意味は、

まだまだ余寒が続く。つま先立ちで一人暮らしの部屋の明かりをつけました…。

という感じです。
なんともわびしい感じですね。最後の「ひとりの灯」という言葉から、ぼんやりと灯る明かりを想像しちゃいます。「余寒なほ」ですから、まだまだ寒々しい生活が続きそうな印象がします。

※五七五のうち、上の五音を上五。下の五音を下五という。

遠きほど家寄り合へる余寒かな 廣瀬直人

鑑賞:俳句らしい一句です。遠近感覚のことですね。遠くから見るほど、家同士は近づいて見えるということです。ということはどういうことでしょうか?

作者は家同士が近づいて見えるほど、街から離れた見晴らしのいい場所にいるということです。
そう考えると余寒を感じるのも納得できます。

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