夏の季語『雲の峰(くものみね)』
夏に見られるあのモコモコとした雲です。科学的に言うと『積乱雲』ですね。強い上昇気流の影響で上の方に伸びた雲のことです。雲にどっしりとした厚みがあり、生命力に溢れた感じがしますね。
同時に、青い空に真っ白な雲という色彩もキレイです。雲の白になにか一点の色を与えるような俳句も多いような気がします。
※太字はすべて同じ季語として使うことができます。
季語『雲の峰(くものみね)』の俳句と鑑賞
厚餡割ればシクと音して雲の峰 中村草田男
鑑賞:厚餡(あつあん)と言うのは「おまんじゅう」のことです。ですので意味としては
おまんじゅうを割ってみたらシクという音がした。空には入道雲。
ということになります。ここでのポイントは「シク」ですね。おまんじゅうの割れる音。入道雲のような分厚い雲をもし割ることができたら同じような音がするかもしれません。もしかしたら中には餡(あん)が入ってたりも…。
このような楽しい想像の一句です。ただ、「雲を割れば」などと書かれていないことが俳句っぽいと言えるでしょう。あくまでリアルなことを書きながら、俳句としてファンタジーになっているところがこの句の良いところです。
また、夏におまんじゅうはちょっと暑苦しくないでしょうか。同じように入道雲にもうんざりしているような感じも受けます。
この句は人生がどうとかそういうことを言っていません。ただ夏の日を描いただけのものです。メッセージがなくても良いというのは俳句の素敵な点だと思います。
眼球の血の一筋や雲の峰 野村登四郎
鑑賞:「や」というのは切れ字です。切れ字というのはそこで前後に分かれますよというときや前の言葉を強調したいときなどに使う俳句の言葉です。「古池や蛙飛びこむ水の音」の「や」と同じですね。
さて、この句。眼球の中の血管か、もしくは内出血でしょう。相当相手を見つめていることになりますね。物凄い緊張感です。
頭上では入道雲が湧き上がっている。
互いの心の中のモノがむくむくと起き上がっているのかもしれません。しかも、夏ですから暑いはずです。あんまり出会いたくないシーンですね。
緊張感のある一句だと思います。
俳句において「季語」+「季語と関係ないこと」で作るのが一つの型ですが、これも上手にその型になっていますね。
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