新年の季語『初日の出』
初日の出の俳句と解説
初日の出ゆるく刻打つ大時計 中村苑子
解説:文字だけでは、「初日の出を待っていると、大時計が刻(とき)を打った」という句です。しかし、「ゆるく刻打つ」とありしかも「大時計」ですから、ゆったりと、またどっしりとした時の流れを感じます。
大時計ですから低く腹の底に響くような音なのでしょう。「お正月なのでゆっくりしている」というだけでなく荘厳な響きがあります。大時計が置かれている屋内の暗さと初日の出の対比が見事です。
海底に藻の色顕ちて初日の出 桂信子
解説:海を見ていたのでしょう。初日の出によって海底の藻の色が見えた。という意味です。「顕ちて(たちて)」と読んであらわれるということですから見えたというだけでなく、なかったものが現れたのだと表現しているところが大きなポイントです。
このように漢字の使い方ひとつで意味がぐっと深くなるのが俳句の面白いところです。
また、海底が見える場所ですからそれほど深い海ではない気がします。浜辺にはあんまり藻がありませんから、漁港とかでしょうか(勝手な想像ですが俳句の鑑賞というのは自由でいいんです)。
暗い海の底にも初日の出が挿してくる。そのような心境を伺えるような気もします。
初日さす坂道をまだ誰も来ず 角川春樹
解説:出版社の人とか映画の人とか思われる方も多いかもしれませんが、角川春樹は実は高名な俳人です。そのまま読んだだけ意味は理解できるんじゃないでしょうか。でも、どこか寂しそうな初日ですね。
ただ、「まだ誰も来ず」という表現は、逆に言うと「これから来る」という意味になります。なので「今はまだ誰も来ないけれどこれから来る」ということになりますね。
「初日の出」だと頭の中の映像が動きませんが「初日さす」とすると映像が動いてきます。今初日がさしてきている感じになります。「初日の出」「初日さす」同じ文字数で同じ内容の季語ですが、イメージが変わってくることは多くありますので、俳句を作る際は季語の色んな言い方を当てはめてみることが大事です。
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