俳句初心者にオススメの俳人 北大路翼
俳句を始めるにあたって何が壁になるかと言うと、「難しいんじゃないか?」ということだと思います。
本当は俳句はもっと自由でなんでもありで良いはずなんですが、周りを見回すとそうでもない。テレビなどで芸能人が作る俳句も相当にレベルが上がっていて、まるで裏で誰か書いてる(もしくは添削してる)んじゃないか?って思うレベルです。
こうなってくると、「わたしには無理だ」と思いがちですが、そういう方にはぜひ北大路翼氏の俳句を知っていただきたい。
熱燗のコップを握つたまま眠る 北大路翼
この句はちゃんと世間で言うところの俳句の形になっています。
五七五で、冬の季語「熱燗」も入っています。
しかしこの俳句の世界観は他の俳句とは違うような感触がしませんか?。
こんなのが俳句でいいの?
という声が聞こえてきそうです。
でも、いいんです。場末の飲み屋で飲みすぎて熱燗のコップを握ったまま眠ってしまうおじさんの哀愁が溢れてるじゃないですか。素晴らしい。
そもそも俳句は平安貴族の短歌に対するものでした。つまり、俗っぽいものだったんです(とても大雑把な説明ですが…)。
それがいつの間にか、花鳥風月を詠むことがメインになり、俗っぽいものは排除されていきました。
そうして結局、選ばれた者だけに許された遊びになってしまったんです。
しかしこの現代において、花鳥風月を追い求め、休みの日にわざわざ田舎へ旅して詠む俳句だけが、現代の俳句でしょうか?
俳句は季節を詠むということなんだとしても、現代の生活に季節はないんでしょうか?
北大路翼氏は「どこにいても俳句は詠める」と言っていましたが、逆に「どこにいても詠めなければ俳句じゃない」と言っているように聞こえました。
彼は主に新宿歌舞伎町を舞台にして俳句を詠んでいます。
都会でどのような俳句が生まれるのか?
それだけでも、興味が湧きませんか?
北大路翼氏は俳句界おいて異端です。異端ですが、とても正しいことをしているんだと思います。
しかしそのような部分ばかりではありません。
北大路翼の歴史
彼は小学五年生で種田山頭火という俳人(自由律俳句の人※1)に憧れ俳句人生をスタートさせています。
それから高校に入り、俳人 今井聖氏(※2)の導きで本格的な有季定形の俳句を始めました。つまり、基本もちゃんとマスターした人で、しっかりとした俳句(?)も作れる人です。
ワカサギの世界を抜ける穴一つ 北大路翼
太刀魚の折れて図鑑に納まりぬ 北大路翼
マスターとヒーターだけの立ち飲み屋 北大路翼
このあたりは初心者が見ても「おお!」っと唸るんじゃないでしょうか。ほぼ説明はいらないと思いますが、順に軽く説明すると、
・ワカサギ釣りの穴から釣り上げられた時、ワカサギは世界を知るのです。
・太刀魚という長い魚は図鑑に見開きで載っていたんでしょう。
・侘しさ満点の立ち飲み屋です。
これらも季節を詠んでいます。しかも、現代に生きるものの俳句です。
さて、今井聖氏の下で腕を磨きながら、彼は現代美術家の会田誠氏などの運動に参加したりと活動の幅を広げ、2015年『天使の涎』という句集を発表、一躍メディアに踊り出ることになりました。
その後も
2017年『時の瘡蓋』 句集
同年 『アウトロー俳句』 アンソロジー
と続々と面白い句集・アンソロジーを発表しています。
俳句界では「裏の夏井いつき」と呼ばれているとか呼ばれていないとか。
今後も要注目の俳人でしょう。
※1)自由律俳句:五七五にとらわれない形の俳句。「うしろすがたのしぐれてゆくか」
※2)角川俳句という雑誌の選者などもしている大御所俳人。