夏の季語『昼寝(ひるね)』

夏の季語『昼寝(ひるね)』

解説
『昼寝(ひるね)』がどうして夏の季語なのでしょうか。夏は暑くて体力を消耗しがちです。同様に夏の夜は寝苦しく、つい睡眠不足にも陥りやすいですよね。

また子供のプールや海水浴の後にも昼寝をとります。いずれにしても体力回復がその目的です。

昔は夏の一番暑い時間帯を昼寝で過ごすという今で言うライフハック的な効果もあったようです。

『昼寝』の季語は親しみやすく俳句も作りやすいんじゃないでしょうか。『昼寝覚(ひるねざめ)』とは昼寝から起きることをいいます。『午睡(ごすい)』『三尺寝(さんじゃくね)』という言い方もあります。

※太字は全て季語です。

季語『昼寝(ひるね)』の俳句と鑑賞

昼寝より覚めしところが現住所 八田木枯

鑑賞:八田木枯は知る人ぞ知る俳人です。僕はこの句が大好きで折りに触れ思い出します。

さて、この俳句の意味は?と言っても簡単ですね。昼寝から起きた、その場所が今の住所である。それだけの意味です。

どこか達観のようなものを感じませんか?現在では色んな物欲が溢れていますが、昼寝から覚めたところが住んでるところなんだよ。これくらいの気持ちで生きると楽なのかもしれません。また、夏の季語としての『昼寝』という意味では、昼寝する場所というのはあまり緊張感のある場所ではありません。心が落ち着かないと眠れませんから。そこは「心が落ち着く場所」=「現住所」。と言ってしまってもいいのかもしれませんね。現住所というお役所のような物言いが効果的です。

さみしさの昼寝の腕の置きどころ 上村占魚

鑑賞:なにかさみしいことがあり、いろいろ考えてるうちに昼寝してしまった。なんてことはよくあることです。短くても睡眠をとると思考がリセットされ少し冷静になれたりもしますよね。

さて、この句は「腕の置きどころ」がポイントです。昼寝というのは少し漠然とした行為ですが、腕の置きどころははっきりとした具体性を持っています。焦点が絞られる感じですね。俳句においては非常に重要で焦点が定まっていないとただただぼんやりとした俳句になりがちです。

昼寝というのはリビングなどでゴロンと始めることが多いですからそうなると腕をどうするかというのは誰にでも思い当たる問題ではないでしょうか。

腕の置きどころとさみしさの置きどころが重なっています。

をさなくて昼寝の國の人となる 田中裕明

解説:「國」は「国」のことです。幼いから昼寝の国の人になった。意味はそれだけです。でも深い味わいがあります。

これは「昼寝の国の人」という言い方にポイントがあるんじゃないでしょうか。小さな子供はすぐに眠ります。遊んでいると思っていたらコテンと寝てしまう。それはもしかしたら「昼寝の国の人」なのかもしれない。

そんな風に妙に納得してしまう一句です。「をさなくて」という出だしも優しさにあふれていて素晴らしい一句です。

昼寝よりさめて寝ている者を見る 鈴木六林男

解説:昼寝から起きた。隣はまだ寝ている。その寝顔を見ている。意味はシンプルです。しかし色んな方向に想像が働く一句です。

例えば、寝顔を見ているのは妻・恋人である。愛おしそうに見ているわけですね。でも、そうなると「寝ている者」という言い方をするでしょうか。

そうなると対して親しくない間、どちらかと言えば嫌いな相手かもしれません。そうなるとちょっと不気味に思えてきます。

わたしは、どちらでもなく昼寝から起きたものの思考がまだはっきりしない。見るとはなしに寝顔を見ている。くらいの感じじゃないかと思いました。つまり、一瞬の切り取りですね。

俳句は短いです。だからこそ、読み手が色んなことを想像するように作りましょう。感情や感想の言葉(好きとか嫌いとか美しいとか)を入れると読み方の方向が定まってしまいますから、避けたほうがいいと言われるわけです。

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