春の季語『落花』
季語『落花』の俳句と鑑賞
ちるさくら海あをければ海へちる 高屋窓秋
鑑賞:幻想的で美しい一句です。これはいわば謎の理屈の句ですね。俳句は短いために何かを言い切る形になることが多くなります。くどくど言う長さがないからです。
ここでは、「海が青いから海へ散るのだ」と書かれています。実際はそんなことはなく、例えば風が海の方へ吹いているから海へ散っているわけですが、それは科学的な見解で、「海が青いから海へ散るのだ」というのが詩の世界です。
科学的じゃなくても、意味が通っていなくても、人の心が共鳴すればそれは詩の世界となりうるのです。俳句の面白いところですね。
てのひらに落花とまらぬ月夜かな 渡辺水巴
鑑賞:俳句はモノを描くことで、具体性をもたせます。また、そのモノによる連想が俳句の世界を深くしてくれます。
「てのひらに落花」この手のひらがあることでこの句を読む人は頭の中で手を開き、その上に止まらない落花を描くわけです。とまらないわけですから、手のひらに積もり、そして落ちてゆくのでしょう。空は月夜というじゃないですか。一枚の絵画を見ているような美しい一句ですね。
飛花落花解雇通知は紙一枚 北大路翼
鑑賞:飛花落花、つまり落ちる花びら・舞う花びらです。そんな中での解雇通知です。上の句の「てのひら」に相当するこの句のアクセント、それが解雇通知というわけです。
俳句はこのような俗っぽい世界も描くことができます。もともと桜というのは儚いものの象徴ですから、解雇通知という悲しい書類にもぴったりでしょう。
ただ、飛花落花というからには、以前にも何枚ももらったことがあるのかもしれません。桜は毎年咲いては散りますからもしかしたら今後も…。
内容だけでなく音も見てみましょう。
「ひからっかかいこつうちはかみいちまい」
と平仮名で書くとわかりますが、「か」で気持ちの良いリズムが取られていますのがわかりますか?
もしかしたらあんまり悲しんでないのかもしれませんね。
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