春の季語『陽炎(かげろう)』
科学的には密度の異なる大気が混じり合うところでは光の屈折率が変わるために起こる現象です。
真夏にも多く見られますが俳句では春の季語になっています。これはこの現象がうららかなイメージを持っているためと言われています。確かにものの輪郭がゆらぐというもは、『朧月』にも通じるものがありますね。
『陽炎燃ゆる』『糸遊(いとゆう)』『遊糸(ゆうし)』『野馬(やば)』『陽焔(陽焔)』『かぎろひ』も同じ意味の季語です。
季語『陽炎(かげろう)』の俳句と鑑賞
かげろふと字にかくやうにかぎろへる 富安風生
鑑賞:これはなんとなくのイメージを楽しむ一句でしょう。
「かげろふ」という言う平仮名を書くという行為のようにゆらめいている。
というような意味ですね。「かぎろへる」は陽炎を動詞にしたものです。この句のポイントはか行が繰り返しでてくるリズムと、「字」だけが漢字であることです。漢字が一文字入ることで他が平仮名であることが強調されますよね。平仮名という字は漢字よりも柔らかく、陽炎に近いんじゃないかと思います。
陽炎やふくらみもちて封書来る 村越化石
鑑賞:地面がゆらめいている陽気。陽炎は春の季語ですから、うららかな日中です。気温もちょうど良さそうです。気を抜くと眠くなるような、そんな中を膨らみのある封書が届きました。
中には何が入っているんでしょう?そんなことを考えずにはいられません。おそらく柔らかで素敵な何かが入っているんじゃないでしょうか。
また別の読み方として、陽炎には儚さ(はかなさ)のイメージもあります。だからこそ、この封書の中身もそんなものかもしれません。
「ふくらみもちて」で封書の中身を想像させているわけですが、季語の『陽炎』にどんなイメージを持っているかで中身のイメージが変わってくるという不思議な一句です。素敵ですね。
陽炎に棲みついてゐる陸上部 才守有紀
鑑賞:SNSをうろうろしていた時に見つけた俳句甲子園の一句で、ずっと印象に残っていた一句。
陽炎と言えば運動場でもよく見ますよね。陽炎越しに遠くで陸上部が練習している。見ているこちらは運動など全く得意でなく別世界のように見ています。陸上部というのはもしかしたら陽炎に棲みついているんじゃないか?と思えるくらい現実味がありません。
わたしも運動が得意な方ではなかったのでこの句に書かれていることはとてもよくわかります。
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