冬の季語『師走』
季語『師走』の俳句と鑑賞
うすうすと紺のぼりたる師走空 飯田龍太
鑑賞:大俳人の一句という感じの堂々とした句です。
うすうすと紺がのぼるとはどういう意味でしょうか。おそらく日の出近くじゃないかと思うんです。暗い夜の空から徐々に青空に変わる瞬間じゃないでしょうか。師走の空ですから、一年の締めくくりと来年への希望が表現されているようで凛とした気持ちになりますね。
インターネットで調べてみると日暮れだと感じる人もいるようです。もちろんそうかもしれません。俳句の鑑賞は自由です。短い詩形ですから自分の体験に当てはめて想像して味わいましょう。
極月のくらやみに山羊鳴きにけり 安住敦
鑑賞:怖いような不気味な一句です。山羊は「やぎ」と読みます。ヤギと言えば、キリスト教などでは悪いイメージがあるようで、わたしたちもなんとなくそのような印象を持っていますよね(もちろん、動物園で見るヤギはかわいいのですがあくまで字面として)。
そこに、『極月』の『極』という言葉がぶつかっています。ましてや「くらやみ」で鳴いているわけですから不気味さを感じない方が不思議じゃないでしょうか。
これが12月ですから、来年はもっと暗いのかも…と不安に襲われてしまいそうです。
と、わたしのこの句の「読み」は暗いのですが、この句自体は特別なことは何も言ってません。「12月の暗闇でヤギが鳴いた」と言ってるだけです。なのに中世ヨーロッパの詩のような印象を持ってしまいます。こういうのも俳句の楽しみ方のひとつです。
あかんべのように師走のファクシミリ 小沢信男
鑑賞:面白い一句です。こういう句を「軽み」の句と言います。くすっとかわいいような感じと言えばいいでしょうか。なんともシャレた句だと思いませんか?
師走のファクシミリがあっかんべーというように紙を吐き出している。
それだけの句です。ただ、12月というのは慌ただしい時期ですから忙しい。諸々の支払いもある。ファクシミリもフル稼働しているのでしょう。ただ、稼働するファクシミリで送られる内容がちょっと嫌なものだったのかもしれませんね。例えば、請求書とか仕事の依頼とか。だからアッカンベーと書いたのでしょう。
ただそれが無茶苦茶しんどい内容ではない。ちょっとだけ嫌な内容というのが俳句的です。このようなちょっとしたところを上手に表現されると「上手い!」と言いたくなります。
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