春の季語『冴返る(さえかえる)』
『春一番』が吹いた後などにシベリアからの寒波が入り込んで来たりして、油断したところですから余計に寒さを感じちゃうという感じです。
『凍返る(いてかえる)』『寒戻る(かんもどる)』も同様の季語です。
季語『冴返る(さえかえる)』の俳句と鑑賞
冴えかへるもののひとつに夜の鼻 加藤楸邨
鑑賞:この句の形は覚えておいて良いと思います。「〇〇するものの一つに△△」という形です。これを五七五の形に入れ込むことができれば結構見栄えのする俳句になります。
その時、みんなが「なるほど!」と納得できて、かつ「それは発見だね!」というようなものにすることが大事になります。この句は見事にそれを捉えていますよね。
暖かいなと思っていた矢先のことです。暗くなってからの帰り道に寒さを感じることがあります。着込んでいれば寒さは防げるわけですが、顔は出ています。鼻が冷たいという感じはみんなが「なるほど!」となるんじゃないでしょうか。
父と子は母と子よりも冴え返る 野見山朱鳥
鑑賞:比較する句です。これも型として覚えておくと良いですね。できるだけ意表をついた比較をしたいものです。
母と子は誰がどう見ても温かさを感じるものですが、父と子になると若干の厳しさがあります。
『冴返る』という季語は、暖かくなってきたところに鋭く切り込むような寒さを表していますからまさに父と子の関係にピッタリです。それでも季語は「春」というところに親子の温もりがありますね。
物置けばすぐ影添ひて冴返る 大野林火
鑑賞:ここで言う「物」というのはなんでもいい物体のことです。何かを置くと、すぐに影が添う(そう)。添うというより影と本体は一心同体のものですよね。しかし、「添う」と表現することによって「影」が意思を持ってわざわざ寄り添って来たかのように表現されています。
どんなものにも影がピッタリくっついてくる。物体だけでなく、人の心もそうかもしれません。なにかすればそこには影がピッタリと…。
そう考えると薄ら寒い気持ちになりますよね。まさに冴返るという感じがしたのでしょう。
このように気分的なものに対しても冴返るという季語はよく使われます。自由な発想で俳句を作ってみてください。
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