春の季語『薄氷(うすらい)』

春の季語『薄氷(うすらい)』

解説
春の季語『薄氷』、俳句では「はくひょう」ではなく「うすらい」と読みます。旧仮名遣いだと「うすらひ」になってなんとなく風情がありますね。

水たまりや池など水のある場所ならどこでもいいのですが、冬に貼る氷と違って表面にうっすらとできる氷のことです。まるでセロファンのような氷を指します。

『薄氷(うすごおり・うすごほり)』『春の氷』『残る氷』ともいいます。

季語『薄氷(うすらい)』の俳句と鑑賞

薄氷の吹かれて端の重なれる 深見けん二

鑑賞:意味は難しくありません。

うすらいの ふかれてはしの かさなれる

と読みます。薄氷は読んで字のごとく薄い氷です。薄すぎて風に吹かれると端のほうが重なったというわけです。これぞ客観写生ですね。

これを言ったからどうなんだ?という声もありそうですが、これだけだからこそ深いんです。「薄ければ風に吹かれて重なることができる」逆に「薄いから端が折れたりするんだ」などと読めば人生にも繋がりそうですし、この観察力は凄い!とただ感動することも出来ます。

作った後は読者に任せるのが俳句の流儀です。

ちなみに、この「薄氷の」の「の」ですが、現代の言葉では「が」に代わるものです。旧仮名遣いで俳句を作る人は覚えておきましょう。

薄氷をぴしぴし踏んで老詩人 中村苑子

鑑賞:薄氷を踏む老詩人の句です。ポイントは「ぴしぴし」でしょうか。一回ではなく何回も鋭く踏んでいますよね。老いても忘れない詩人の魂でしょうか。

また、老詩人という響きが薄氷と響き合っています。氷の鋭さが詩人という感じがしますし、溶けそうな儚さは老詩人という雰囲気です。

このようなまったく違う2つのものを登場させる俳句の作り方を二物衝撃取り合わせと言います。
2つは離れすぎてもダメですし、付きすぎでもダメです。距離感が大事なのです。

これはお手本のような取り合わせの句だと思います。

せりせりと薄氷杖のなすままに 山口誓子

鑑賞:大俳人である山口誓子の一句です。この句の意味と言えば、

薄氷を杖でつくとセリセリと杖でつくままに壊れたよ。

というような意味です。しかし、「せりせりと」という擬音の新しさ、「杖のなすままに」という表現が非常に新鮮な響きになっています。

「せりせりと」はなかなか出てきませんよね。また春の句ですから植物の「芹」も連想させます。また「杖で突き壊す」など動詞を使わず、「杖のなすままに」というその後を読者に任せたような表現が素晴らしい名句です。

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