冬の季語『冬菫(ふゆすみれ)』
冬菫の名句たち
ふるきよきころの色して冬すみれ 飯田龍太
鑑賞:冬のスミレはたいてい森の中などで見つけるもので、格別に目を引くという色ではない。しかし冬の枯れた景色の中では目を引くものであることは確かである。それを「ふるきよきころの色」と表現したのが素敵である。ふるきよきころの色というのはある程度年齢を重ねないとわからない色合いである。冬菫も同じように年齢を重ねたものにしかわからない喜びだろう。
また、この句の漢字と平仮名の割合にも注目したい。色と冬だけが漢字で書かれているため目に飛び込んでくる。冬の色のなかにスミレが溶け込むような気持ちがするし、平仮名が多いことでやわらかな印象にもなっている。名人芸である。
寒すみれ摘まれ来しこと誕生日 後藤夜半
鑑賞:寒の時期(1月6日の小寒~2月4日の立春)というのは一番寒い時期であるから、その時期に咲いたスミレというのは格別に嬉しいものだろうし、立春が近いことからあたたかさを先取りしたようなものでもあるのだろう。さて、そのような「寒すみれを誕生日に摘んできてくれた」ことが嬉しいことなのだろうか。
それとも摘まずとも良かったのに…と悲しんでいるのだろうか。この句はそこまでは語っていない。それは読者の想像に任されている。誕生日という言葉が効いている句である。
つまりただの菫ではないか冬の 金原まさ子
鑑賞:100歳を超えても刺激的な俳句を作り続けた金原まさこの一句である。別にたいして騒ぐほどのことではない。ただのスミレじゃないか。と言っているだけなのだが、最後の「冬の」のあとに永遠の空白があるような気がする。「冬の」スミレだったら実は大したことあるわけなのだ。
しかし、その時の気分はそうではなかった。スミレなんかどうでも良かった。その複雑な心境が最後の「冬の……」に生きていると思う。
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