秋の季語『バッタ』
季語というのは決まり・ルールです。ここに疑問を持つことも大事ではあるのですが、有季定型(ゆうきていけい:季語の入った俳句のこと)で俳句を作るなら、とりあえずは従いましょう。
ご存知のようにバッタというのはジャンプ力のある昆虫です。トノサマバッタやショウリョウバッタなどたくさんの種類がいて、どれも季語になりますが、特にその必要がない場合は種類を言うよりもバッタとした方が文字数の節約になります。
同様の意味のものに
『きちきち』『きちきちばった』『はたはた』などがあります。
※太字は全て季語です。
季語『バッタ』の俳句と鑑賞
しづかなる力満ちゆき螇蚸とぶ 加藤楸邨
鑑賞:大俳人の加藤楸邨の一句です。意味は難しくありません。バッタの跳ぶ瞬間をじーっと観察した結果でしょう。
バッタが跳ぶ瞬間。その前にバッタの体全体に力が満ちてから跳ぶというわけです。確かに目に見える動きや音はありませんが、バッタの周囲に緊張が満ちてその緊張が頂点に達したときに跳ぶ。そんなイメージがあります。
スローモーション映像を見ているような気がしませんか?短い十七音だけが俳句の世界です。それを全部使ってバッタの跳ぶ瞬間を描かれるとこのようなイメージになるんです。
そのものをじっと観察すること。俳句を作るのにとっても大事なポイントです。
反らしたる指を離れぬばつたかな 山西雅子
鑑賞:バッタの特徴はジャンプすることですよね。それがジャンプしなかった。それを俳句にしたというわけです。
しかも、指を立てただけじゃなく反らすまでしたのに跳ばない。跳ばないどころか指を離れようともしない。
作者は女性ですから、子供の遊びを見て作った俳句かも知れません。しかし、深読みすれば、「バッタ=エネルギーの象徴=息子あるいは若い男性」とも読み取れます。
「もうそろそろ離れなさい」そう言っているにも関わらずなぜか離れない。それを半分鬱陶しく、もう半分は愛おしく思っているのかもしれません。
このようにシンプルな俳句について色々な想像を巡らすのも俳句の楽しいところです。逆を言えばシンプルで何も言わない(なんら深い意味を持たさない)ことで相手の深読みへ誘うのも作る方としては覚えておきたいところです。
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